民事信託の基礎知識
信託の変更をするときは?
契約信託を行った場合、委託者が元気な間に、生活環境や財産状況の変化があり、信託の目的や信託財産の管理方法などを変更したいと考える事もあります。
この場合は、「信託の変更」を行うことになります。「信託の変更」については、信託法の改正にも携わっておられた寺本昌広氏によって「信託行為に定められた信託の目的、信託財産の管理方法、受益者に対する信託財産の給付の内容その他の事項について、事後的に変更すること」と定義されています(同氏『逐条解説 新しい信託法』339ページ)。
法律の条文でいうと、信託の変更は信託法第149条に6パターンの方法が定められています。
まず、契約信託は、委託者・受託者で結んだ契約によって始まる信託であり、変更する場合は受益権を持つ受益者にも影響を及ぼしますから、委託者、受託者、受益者の三者間での合意が原則とされています。
そして、例外的に三者間での合意が不要な場合が列挙されています。
(1)信託の目的に反しないことが明らかなとき
受託者及び受益者の合意
(2)信託の目的に反しないことが明らかであり、さらに受益者の利益になる場合
受託者の書面等による意思表示
(3)受託者の利益を害さないことが明らかなとき
委託者及び受益者の受託者に対する意思表示
(4)受託者の利益を害さないこと及び信託の目的に反しないことが明らかであるとき
受益者の受託者に対する意思表示
(5)上記以外にも、信託を行う際に特約として変更方法を定めていた場合
信託行為で定められた方法による
信託は、委託者の想いを叶えるために行うものですから、信託の目的はその根幹をなすものと考えられます。
したがって、その目的に変更がない場合は、その他の部分を変更しても委託者の想いは叶えられると考えることができるでしょう。受託者は、財産の管理・運用を行っていますから、その管理方法等に変更が加えられると、管理の手間が膨大になってしまうなど不利益を被る可能性もあります。そして、信託財産からの利益を受けている受益者にとってみれば、信託の変更は自身の受益権に深く関わる問題です。このような観点から、信託に関わる三者の利益を害さない範囲であれば、変更の要件が緩められていると考えられます。
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委託者、受託者、受益者が死んだら? 信託契約における当事者が死亡した場合、誰が権利を継承するの?
信託契約には、「委託者」「受託者」「受益者」の3つの立場が存在します。そのため当事者が死亡した場合には、それぞれの定めに従って相続が行われます。
3つすべてに共通して言えることは、信託の契約内で、当事者の死亡時の次の継承者を決めてあれば、その内容に従うことができます。
そのため財産を継承させたい場合には、信託契約にその旨の内容を明記しておく必要があります。
立場別に見る「委託者」「受託者」「受益者」の権利承継者
まずは委託者が死亡した場合、委託者の地位が相続によって継承します。
そこで、以下のような文言を記載します。
(委託者の死亡後の委任者の権利)
第○条 委託者の死亡により、委託者の権利は消滅するものとする。しかし遺言による信託を行った場合には、相続人には委託者の地位は承継されないように信託法で規定されています。
そして受益者が死亡した場合も、委託者同様に、財産の相続人が受益権を相続することで受益者となります。信託契約内に明記がなければ、遺産分割協議で他の財産と同様に取得者や取り分が決められます。生前に受益者が相続人指定をしておくことも可能です。ちなみに、受益権の財産評価は、通常の財産評価と何ら変化はありません。したがって、不動産建物は固定資産税評価額、土地は路線価です。つまり、信託を活用することで直接的な相続税の節税には繋がらないのです。
最後に受託者が死亡した場合ですが、次の受託者を選任しなければいけません。信託契約内に選任方法が明記されていればその方法に従います。定めがない場合には、委託者と受益者が話し合い、合意のもとで新しい受託者を選びます。話し合いがまとまらない場合などにおいては、裁判所に申し立てをして選任をしてもらうケースも出てきます。
信託契約の終了を左右してしまう受託者選任の重要性
注意が必要なのが、受託者が死亡して1年間、次の受託者が選任されなかった場合、強制的に信託契約は終了してしまうということです。(1年ルール)
そして受託者の相続人は、受託者の地位を相続して承継することはないものの、新しい受託者が選任されるまで、信託財産を管理する立場にあります。
そのため信託契約を締結する段階で、さまざまな事情が起こった際の対処法を想定しておかなければなりません。
受託者が死亡した際、次は誰を受託者に指名するのかは最低限、決めておくべき事項になります。誰が先に亡くなるのかは、誰にもわからないことです。そこで、あらゆるケースを想定し、対応策として先手を打っておくことが信託契約の成功の鍵となってきます。
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信託の方法は実は三種類ある!? ①契約信託
委託者と受託者との間で信託契約書を結ぶことで、信託がスタートする方法です。この信託契約書は、必ずしも公正証書にする必要はありません。ケースによっては公正証書にします。
ただし、公証役場で確定日付や認証は行うことをオススメします。費用は1通700円くらいです。
なぜ確定日付をいれるのか?
契約書はワードで作成しますので、データを改ざんされてしまうと、本当にその日に作成したのかが不透明になってしまうからです。つまり、税務署が税務調査をした場合、贈与や信託の日付が本当に正しいのか疑われないように対策するためです。公証役場にいる公証人が日付入りのスタンプを押すことは、税務署も疑いの余地がありません。②遺言信託
委託者は、信託契約ではなく、遺言書の中に、「委託者が亡くなったら、信託を発生させたい。」というような中身を記載します。つまり、亡くなった瞬間に信託の効力が発動します。
さて、もしかすると、勘のいい方はお気づきかもしれませんが、違和感ありませんか?「あれ?遺言信託?どこかの銀行がやっていた名前と同じではないか」
そうなのです。銀行がサービス提供している商品に「遺言信託」があります。
実は、遺言信託は「信託」という名前こそ付いていますが、厳密には第三者に財産の管理を委ねる「信託」そのものではありません!あくまでもお客様が遺言書を信託銀行に預けて、信託銀行がその遺言書に基づいて遺言を執行することをいいます。つまり、遺言信託は「遺言文案+遺言保管+遺言執行」のサービス名称にすぎません。これを誤解しているお客様が非常に多いです・・・
金融機関がお話している遺言信託はどちらの意味なのかを分けて考えて頂く必要があります。
銀行の遺言信託では、二次相続以降の引き継ぎ先は決めることが出来ないので、大事なのは、ご自信がどういう想いで財産を残したいかですね。そして、遺言信託は公正証書ですることをオススメします。③自己信託
ある日、自分の財産を信託します。という宣言をすることで信託を発動させる方法です。
つまり、委託者と受託者と受益者が同じ方法です。これに関しては、公正証書で作成します。ただし、注意点としては、受託者と受益者が同一の状態が1年間続いた場合は、信託が終了するという1年ルールがありますので、受益者を複数にするのか、受益者の変更を行う必要があります。
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