コラム

民事信託の基礎知識
自己信託とは?

平成20年より可能になった自己信託の概要とは?

自己信託とは、委託者自らが受託者となる信託のことをいいます。そのため信託設定後においても、本人が所有者であり管理者として、財産の決定権・裁量権を持っています。

 

なぜ、わざわざこのようなことをする必要があるのでしょうか?

 

それは将来、トラブルになってしまいそうな財産を自己信託しておくことで、受益者を指定しつつも、生きているあいだは自己の判断で自由に運用・管理することが可能になるからです。

 

しかし、旧信託法においては、自己信託という方法を認めてしまうことで、信託財産が倒産隔離されてしまい、執行免脱の恐れがあると考えていました。

 

ですが、欧米など海外でも広く認められ利用されている制度であるため、平成19年9月30日の改正信託法の施行を経て、平成20年9月30日に可能となったのが、自己信託という新しい財産管理方法です。

 

 

自己信託を行うことで手に入る大きなメリットとは?

自己信託という方法は、後継者に自社株を承継させる手段として非常に優れています。例え明確に後継者が決まっている場合でも、いきなり自社株を譲渡するのではなく、まずは自己信託を行います。

 

そうすることで、当事者である本人が管理者となって議決権を行使し、経営オーナーとして経営権を握ったまま、後継者への株式移転が行えます。この際には、受益者連続信託を行えば、後継ぎである子Aの死亡後には、孫であるBを受益者とする内容の指定も可能になります。

 

また。法人が新規事業に進出する場合でも、わざわざ子会社を設立させて出資を募らなくても、事業部門を自己信託してしまえば、資金調達が行えるなどのメリットも大きくなっています。

 

若しくは、財産管理会社を設立した後に、不動産を簿価譲渡することがあります。その際の方法として、一度自己信託を活用し、その後、受益権売買で法人へ移転させる方法があります。

 

懸念されていた倒産隔離への対策と締結時の注意点
自己信託の成立に向けて、大きな壁となっていたのが、倒産隔離機能の悪用です。そのため新信託法においては、自己信託は公正証書によってのみ成立させることとしています。

 

悪質なケースでは、債権者が詐欺行為取消権をわざわざ行使させなくても、強制執行が認められることになりました。また、公益を確保すべく、自己信託を裁判所の命により終了できるという措置も講じられています。

 

そもそも自己信託は、高齢により判断能力が衰える前に、財産の継承者を指定する方法として検討されています。認知症対策として有効に活用することと同時に、タイミングの見極めが重要になってきます。

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    家族信託の手続き

    家族信託を検討した際に決めておかなければならない項目

    家族信託を締結するには、他の財産管理方法と比較・検討を行います。
    その上で信託という手段がベストだと判断した際に、スキーム構築をスタートさせます。

     

    まずは、信託の目的を明確にして当事者を確定します。時期や承継の順番などの詳細な情報を決めていきます。
    そして委託者の相続人となりうる親族を調査し、遺留分の確認を行います。

     

    その上で、信託財産を確定させ、資料が必要となれば、準備・確認をしていきます。

     

    この段階で、重要となる受託者の選定に入ります。任せる受託者が決定している時には、権限などを検討し、報酬などの協議に入ります。そして信託監督人や受益権指定者、受益者代理人などを立てる場合には、併行して内容の検討を行います。

     

    最後に信託契約の終了時期と、財産の帰属者を定めます。そして税務上のチェックを受けた後に信託契約書を作成します。そして信託財産が不動産である場合には、所有権移転登記・信託登記が必要になります。

     

     

    さまざまな情報を整理しておくことで信託契約がスムーズに

    家族信託において、決定すべき事柄は、対象とする信託財産や内容、委託者、受託者、受益者だけではありません。

     

    信託の開始時期から終了時期、各人が亡くなった後の承継まで、幅広く定めておかなければいけません。
    信託財産に不動産が含まれる場合であれば、信託目録の作成や登記などの作業も必要になります。

     

    信託契約は、委託者と受託者の合意があれば契約を結ぶことができます、つまり受益者の合意は必要ないのです。しかしながら、家族全員の同意をもらうことをオススメしています。

     

    そして信託契約締結と同時に効力が発生します。

     

    信託財産は受託者への登録・登記が必要になり、名義変更をしなければならないものの、利益を受ける訳ではないため、贈与税はかかりません。そしてもちろん不動産取得税はかからず、登録免許税も安いため、低予算の中で契約を結ぶことができます。

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    委託者、受託者、受益者が死んだら?

    信託契約における当事者が死亡した場合、誰が権利を継承するの?

    信託契約には、「委託者」「受託者」「受益者」の3つの立場が存在します。そのため当事者が死亡した場合には、それぞれの定めに従って相続が行われます。

     

    3つすべてに共通して言えることは、信託の契約内で、当事者の死亡時の次の継承者を決めてあれば、その内容に従うことができます。

     

    そのため財産を継承させたい場合には、信託契約にその旨の内容を明記しておく必要があります。

     

    立場別に見る「委託者」「受託者」「受益者」の権利承継者

    まずは委託者が死亡した場合、委託者の地位が相続によって継承します。

     

    そこで、以下のような文言を記載します。
    (委託者の死亡後の委任者の権利)
    第○条 委託者の死亡により、委託者の権利は消滅するものとする。

     

    しかし遺言による信託を行った場合には、相続人には委託者の地位は承継されないように信託法で規定されています。

     

    そして受益者が死亡した場合も、委託者同様に、財産の相続人が受益権を相続することで受益者となります。信託契約内に明記がなければ、遺産分割協議で他の財産と同様に取得者や取り分が決められます。生前に受益者が相続人指定をしておくことも可能です。ちなみに、受益権の財産評価は、通常の財産評価と何ら変化はありません。したがって、不動産建物は固定資産税評価額、土地は路線価です。つまり、信託を活用することで直接的な相続税の節税には繋がらないのです。

     

    最後に受託者が死亡した場合ですが、次の受託者を選任しなければいけません。信託契約内に選任方法が明記されていればその方法に従います。定めがない場合には、委託者と受益者が話し合い、合意のもとで新しい受託者を選びます。話し合いがまとまらない場合などにおいては、裁判所に申し立てをして選任をしてもらうケースも出てきます。

     

     

    信託契約の終了を左右してしまう受託者選任の重要性

    注意が必要なのが、受託者が死亡して1年間、次の受託者が選任されなかった場合、強制的に信託契約は終了してしまうということです。(1年ルール)

     

    そして受託者の相続人は、受託者の地位を相続して承継することはないものの、新しい受託者が選任されるまで、信託財産を管理する立場にあります。

     

    そのため信託契約を締結する段階で、さまざまな事情が起こった際の対処法を想定しておかなければなりません。

     

    受託者が死亡した際、次は誰を受託者に指名するのかは最低限、決めておくべき事項になります。誰が先に亡くなるのかは、誰にもわからないことです。そこで、あらゆるケースを想定し、対応策として先手を打っておくことが信託契約の成功の鍵となってきます。