コラム

民事信託の基礎知識
後見制度支援信託とは?

商事信託と民事信託は、必ずしも競合するものではありません。活用事例①の共有不動産の解消、活用事例②贈与信託の場合は、民事信託で達成できます。しかし、商事信託でしか実現できないものもあります。例えば、後見制度支援信託があります。ご紹介しましょう。

 

 

後見制度支援による信託を活用した財産管理の方法とは?

そもそも後見制度とは、法定後見と任意後見に分かれます。成年後見制度とは、認知症や知的・精神障害などによって本人に判断能力がない場合に、成年後見人を選任することで法律的に本人を支援していく制度です。

 

後見制度支援信託とは、上記のように支援を受けている方の財産管理を、信託という手段を利用して行うものです。

 

そのため契約や変更、解約などの手続きは、すべて家庭裁判所の指示に基づいて行われます。
本制度においては、本人が日常生活に必要とする金銭以外を、信託銀行などに信託として預けることで、後見人などによる財産横領を防ぐことができます。

 

家庭裁判所への手続きが必要となる信託契約締結の流れとは?
後見制度支援信託を利用する際には、まず家庭裁判所への後見開始の申立てを行います。

 

裁判所が当該支援信託の利用検討の余地があると判断した場合には、司法書士などの専門家を後見人に選任します。その上で、本人の生活や財産の状況をトータルに考慮し、専門家の後見人による検討・判断が行われます。

 

そして信託制度を利用すべき場合には、家庭裁判所へ作成した報告書の提出を行います。そして裁判所から発行された指示書をもとに、信託契約を締結します。

 

 

後見制度支援信託を利用することで防げる不正行為

親族後見人による、財産の使い込みは年々増加を続けています。平成23年~24年の計2年間では900件以上、被害総額は80億円を超えています。後見人によって財産を横領する事件が起きれば、財産を損なうという直接的な被害だけではなく、成年後見制度自体の信頼性が問われてきます。

 

しかし、後見制度支援信託であれば、信託契約締結後は、契約で定められた金額のみを、定期的に後見人の管理している口座へと送金します。そのため、日常的な支出のみを実質管理をする形になります。もちろん医療費などの予定外の支出があれば、裁判所からの指示を得て、契約内容を変更することが可能です。

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    家族信託の手続き

    家族信託を検討した際に決めておかなければならない項目

    家族信託を締結するには、他の財産管理方法と比較・検討を行います。
    その上で信託という手段がベストだと判断した際に、スキーム構築をスタートさせます。

     

    まずは、信託の目的を明確にして当事者を確定します。時期や承継の順番などの詳細な情報を決めていきます。
    そして委託者の相続人となりうる親族を調査し、遺留分の確認を行います。

     

    その上で、信託財産を確定させ、資料が必要となれば、準備・確認をしていきます。

     

    この段階で、重要となる受託者の選定に入ります。任せる受託者が決定している時には、権限などを検討し、報酬などの協議に入ります。そして信託監督人や受益権指定者、受益者代理人などを立てる場合には、併行して内容の検討を行います。

     

    最後に信託契約の終了時期と、財産の帰属者を定めます。そして税務上のチェックを受けた後に信託契約書を作成します。そして信託財産が不動産である場合には、所有権移転登記・信託登記が必要になります。

     

     

    さまざまな情報を整理しておくことで信託契約がスムーズに

    家族信託において、決定すべき事柄は、対象とする信託財産や内容、委託者、受託者、受益者だけではありません。

     

    信託の開始時期から終了時期、各人が亡くなった後の承継まで、幅広く定めておかなければいけません。
    信託財産に不動産が含まれる場合であれば、信託目録の作成や登記などの作業も必要になります。

     

    信託契約は、委託者と受託者の合意があれば契約を結ぶことができます、つまり受益者の合意は必要ないのです。しかしながら、家族全員の同意をもらうことをオススメしています。

     

    そして信託契約締結と同時に効力が発生します。

     

    信託財産は受託者への登録・登記が必要になり、名義変更をしなければならないものの、利益を受ける訳ではないため、贈与税はかかりません。そしてもちろん不動産取得税はかからず、登録免許税も安いため、低予算の中で契約を結ぶことができます。

  • 民事信託の基礎知識
    信託の変更をするときは?

    契約信託を行った場合、委託者が元気な間に、生活環境や財産状況の変化があり、信託の目的や信託財産の管理方法などを変更したいと考える事もあります。

     

    この場合は、「信託の変更」を行うことになります。「信託の変更」については、信託法の改正にも携わっておられた寺本昌広氏によって「信託行為に定められた信託の目的、信託財産の管理方法、受益者に対する信託財産の給付の内容その他の事項について、事後的に変更すること」と定義されています(同氏『逐条解説 新しい信託法』339ページ)。

     

    法律の条文でいうと、信託の変更は信託法第149条に6パターンの方法が定められています。
    まず、契約信託は、委託者・受託者で結んだ契約によって始まる信託であり、変更する場合は受益権を持つ受益者にも影響を及ぼしますから、委託者、受託者、受益者の三者間での合意が原則とされています。

     

     

    そして、例外的に三者間での合意が不要な場合が列挙されています。

    (1)信託の目的に反しないことが明らかなとき
    受託者及び受益者の合意
    (2)信託の目的に反しないことが明らかであり、さらに受益者の利益になる場合
    受託者の書面等による意思表示
    (3)受託者の利益を害さないことが明らかなとき
    委託者及び受益者の受託者に対する意思表示
    (4)受託者の利益を害さないこと及び信託の目的に反しないことが明らかであるとき
    受益者の受託者に対する意思表示
    (5)上記以外にも、信託を行う際に特約として変更方法を定めていた場合
    信託行為で定められた方法による

     

    信託は、委託者の想いを叶えるために行うものですから、信託の目的はその根幹をなすものと考えられます。

     

    したがって、その目的に変更がない場合は、その他の部分を変更しても委託者の想いは叶えられると考えることができるでしょう。受託者は、財産の管理・運用を行っていますから、その管理方法等に変更が加えられると、管理の手間が膨大になってしまうなど不利益を被る可能性もあります。そして、信託財産からの利益を受けている受益者にとってみれば、信託の変更は自身の受益権に深く関わる問題です。このような観点から、信託に関わる三者の利益を害さない範囲であれば、変更の要件が緩められていると考えられます。