コラム

民事信託の基礎知識
受益権の贈与と売買

信託契約における受益権の基本知識と一般形態

信託を活用した場合、信託財産から発生する経済的な利益を受け取れる権利、つまり受益権を受益者は保有しています。

 

信託法や信託業法に則り、定められた契約内容に従って、受託者には一定の義務・責任が発生してきます。
そして、受益権は、債権の一種なので、贈与することも売買することもできます。

 

 

注意が必要な不動産における信託受益権売買とは?

不動産を信託財産として活用される方が増えています。
しかし注意をしておかなければならないのは、不動産の信託受益権は取引上、株式や債券などと同様に有価証券として取り扱われることです。

 

実物の不動産と、不動産の信託受益権の売買では、取引の内容が異なるという認識が必要です。関連してくる法令も宅地建物取引業法ではなく、金融商品取引法へ代わります。不動産会社の方が仲介をする場合は、金融Ⅱ種免許が必要になります。

 

 

信託受益権の評価方法と時間経過に伴い変化をみせる価値

少し応用編です。

 

信託における受益権は、「元本受益権」と「収益受益権」から構成されています。
株式や債権、不動産などの「元本部分」と、賃料収入や配当、利息などを受け取る「収益部分」に分離されます。
そのため元本受益者と収益受益者が異なる場合には、これらの権利は分離して評価されます。
そのため時間の経過とともに減少する「収益受益権」の評価と、時間の経過とともに上昇をみせる「元本受益権」の評価に着目したのが、受益権分離型信託といえます。

 

親が収益受益権を、子が元本受益権を持つことにより、時間の経過とともに財産移転を行うことができます。
また信託期間が終了すれば、信託された財産は、所有者である委託者の元へ戻されます。

 

そのため贈与税の支払いを少なく抑えながら、相続税の減税効果が期待できます。親の生存中に資産の移転が完了するため、税金対策としても有効な手段として注目を集めています。

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    信託の方法は実は三種類ある!?

    ①契約信託

    委託者と受託者との間で信託契約書を結ぶことで、信託がスタートする方法です。この信託契約書は、必ずしも公正証書にする必要はありません。ケースによっては公正証書にします。

     

    ただし、公証役場で確定日付や認証は行うことをオススメします。費用は1通700円くらいです。

     

    なぜ確定日付をいれるのか?
    契約書はワードで作成しますので、データを改ざんされてしまうと、本当にその日に作成したのかが不透明になってしまうからです。つまり、税務署が税務調査をした場合、贈与や信託の日付が本当に正しいのか疑われないように対策するためです。公証役場にいる公証人が日付入りのスタンプを押すことは、税務署も疑いの余地がありません。

     

     

    ②遺言信託

    委託者は、信託契約ではなく、遺言書の中に、「委託者が亡くなったら、信託を発生させたい。」というような中身を記載します。つまり、亡くなった瞬間に信託の効力が発動します。

     

    さて、もしかすると、勘のいい方はお気づきかもしれませんが、違和感ありませんか?「あれ?遺言信託?どこかの銀行がやっていた名前と同じではないか」

     

    そうなのです。銀行がサービス提供している商品に「遺言信託」があります。
    実は、遺言信託は「信託」という名前こそ付いていますが、厳密には第三者に財産の管理を委ねる「信託」そのものではありません!あくまでもお客様が遺言書を信託銀行に預けて、信託銀行がその遺言書に基づいて遺言を執行することをいいます。つまり、遺言信託は「遺言文案+遺言保管+遺言執行」のサービス名称にすぎません。これを誤解しているお客様が非常に多いです・・・
    金融機関がお話している遺言信託はどちらの意味なのかを分けて考えて頂く必要があります。
    銀行の遺言信託では、二次相続以降の引き継ぎ先は決めることが出来ないので、大事なのは、ご自信がどういう想いで財産を残したいかですね。そして、遺言信託は公正証書ですることをオススメします。

     

     

    ③自己信託

    ある日、自分の財産を信託します。という宣言をすることで信託を発動させる方法です。
    つまり、委託者と受託者と受益者が同じ方法です。

     

    これに関しては、公正証書で作成します。ただし、注意点としては、受託者と受益者が同一の状態が1年間続いた場合は、信託が終了するという1年ルールがありますので、受益者を複数にするのか、受益者の変更を行う必要があります。

  • 民事信託の基礎知識
    委託者、受託者、受益者が死んだら?

    信託契約における当事者が死亡した場合、誰が権利を継承するの?

    信託契約には、「委託者」「受託者」「受益者」の3つの立場が存在します。そのため当事者が死亡した場合には、それぞれの定めに従って相続が行われます。

     

    3つすべてに共通して言えることは、信託の契約内で、当事者の死亡時の次の継承者を決めてあれば、その内容に従うことができます。

     

    そのため財産を継承させたい場合には、信託契約にその旨の内容を明記しておく必要があります。

     

    立場別に見る「委託者」「受託者」「受益者」の権利承継者

    まずは委託者が死亡した場合、委託者の地位が相続によって継承します。

     

    そこで、以下のような文言を記載します。
    (委託者の死亡後の委任者の権利)
    第○条 委託者の死亡により、委託者の権利は消滅するものとする。

     

    しかし遺言による信託を行った場合には、相続人には委託者の地位は承継されないように信託法で規定されています。

     

    そして受益者が死亡した場合も、委託者同様に、財産の相続人が受益権を相続することで受益者となります。信託契約内に明記がなければ、遺産分割協議で他の財産と同様に取得者や取り分が決められます。生前に受益者が相続人指定をしておくことも可能です。ちなみに、受益権の財産評価は、通常の財産評価と何ら変化はありません。したがって、不動産建物は固定資産税評価額、土地は路線価です。つまり、信託を活用することで直接的な相続税の節税には繋がらないのです。

     

    最後に受託者が死亡した場合ですが、次の受託者を選任しなければいけません。信託契約内に選任方法が明記されていればその方法に従います。定めがない場合には、委託者と受益者が話し合い、合意のもとで新しい受託者を選びます。話し合いがまとまらない場合などにおいては、裁判所に申し立てをして選任をしてもらうケースも出てきます。

     

     

    信託契約の終了を左右してしまう受託者選任の重要性

    注意が必要なのが、受託者が死亡して1年間、次の受託者が選任されなかった場合、強制的に信託契約は終了してしまうということです。(1年ルール)

     

    そして受託者の相続人は、受託者の地位を相続して承継することはないものの、新しい受託者が選任されるまで、信託財産を管理する立場にあります。

     

    そのため信託契約を締結する段階で、さまざまな事情が起こった際の対処法を想定しておかなければなりません。

     

    受託者が死亡した際、次は誰を受託者に指名するのかは最低限、決めておくべき事項になります。誰が先に亡くなるのかは、誰にもわからないことです。そこで、あらゆるケースを想定し、対応策として先手を打っておくことが信託契約の成功の鍵となってきます。