コラム

民事信託の基礎知識
どんな財産を信託することができるのか?

所有者が保有している財産は、固有財産と呼ばれます。

 

では、どのような固有財産が信託することができるのでしょうか。

 

原則として、“財産的価値があるもの”は、信託することができます。

 

 

①不動産所有権、借地権、動産(ペット)、金銭

*信託契約により、管理・処分権限が受託者へ移ります。

 

 

②上場株式、非上場株式、著作権や知的財産権

*財産権以外の、議決権や利用決定権は受託者へ移ります。

 

 

③債権(請求権)、将来債権(未実現の請求権)

信託することができないもの

次のものは、信託できません。

 

①生命、名誉

 

②債務、連帯保証(いわゆるマイナス財産は信託できません)

 

③一身専属権(生活保護受給権や年金受給権)

 

なお、注意点としては、信託契約書に銀行口座を記載される方がいらっしゃいますが、銀行口座は、預金債権です。通常、銀行の預金債権は譲渡禁止特約付債権になります。
したがって、預金債権は信託できません。

 

また、債務は信託できない財産ですが、別途、債務引受はできます。実質、債務を信託することと同じ状態にすることができます。

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    信託法や信託業法に則り、定められた契約内容に従って、受託者には一定の義務・責任が発生してきます。
    そして、受益権は、債権の一種なので、贈与することも売買することもできます。

     

     

    注意が必要な不動産における信託受益権売買とは?

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    実物の不動産と、不動産の信託受益権の売買では、取引の内容が異なるという認識が必要です。関連してくる法令も宅地建物取引業法ではなく、金融商品取引法へ代わります。不動産会社の方が仲介をする場合は、金融Ⅱ種免許が必要になります。

     

     

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    少し応用編です。

     

    信託における受益権は、「元本受益権」と「収益受益権」から構成されています。
    株式や債権、不動産などの「元本部分」と、賃料収入や配当、利息などを受け取る「収益部分」に分離されます。
    そのため元本受益者と収益受益者が異なる場合には、これらの権利は分離して評価されます。
    そのため時間の経過とともに減少する「収益受益権」の評価と、時間の経過とともに上昇をみせる「元本受益権」の評価に着目したのが、受益権分離型信託といえます。

     

    親が収益受益権を、子が元本受益権を持つことにより、時間の経過とともに財産移転を行うことができます。
    また信託期間が終了すれば、信託された財産は、所有者である委託者の元へ戻されます。

     

    そのため贈与税の支払いを少なく抑えながら、相続税の減税効果が期待できます。親の生存中に資産の移転が完了するため、税金対策としても有効な手段として注目を集めています。

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    商事信託と民事信託は、必ずしも競合するものではありません。活用事例①の共有不動産の解消、活用事例②贈与信託の場合は、民事信託で達成できます。しかし、商事信託でしか実現できないものもあります。例えば、後見制度支援信託があります。ご紹介しましょう。

     

     

    後見制度支援による信託を活用した財産管理の方法とは?

    そもそも後見制度とは、法定後見と任意後見に分かれます。成年後見制度とは、認知症や知的・精神障害などによって本人に判断能力がない場合に、成年後見人を選任することで法律的に本人を支援していく制度です。

     

    後見制度支援信託とは、上記のように支援を受けている方の財産管理を、信託という手段を利用して行うものです。

     

    そのため契約や変更、解約などの手続きは、すべて家庭裁判所の指示に基づいて行われます。
    本制度においては、本人が日常生活に必要とする金銭以外を、信託銀行などに信託として預けることで、後見人などによる財産横領を防ぐことができます。

     

    家庭裁判所への手続きが必要となる信託契約締結の流れとは?
    後見制度支援信託を利用する際には、まず家庭裁判所への後見開始の申立てを行います。

     

    裁判所が当該支援信託の利用検討の余地があると判断した場合には、司法書士などの専門家を後見人に選任します。その上で、本人の生活や財産の状況をトータルに考慮し、専門家の後見人による検討・判断が行われます。

     

    そして信託制度を利用すべき場合には、家庭裁判所へ作成した報告書の提出を行います。そして裁判所から発行された指示書をもとに、信託契約を締結します。

     

     

    後見制度支援信託を利用することで防げる不正行為

    親族後見人による、財産の使い込みは年々増加を続けています。平成23年~24年の計2年間では900件以上、被害総額は80億円を超えています。後見人によって財産を横領する事件が起きれば、財産を損なうという直接的な被害だけではなく、成年後見制度自体の信頼性が問われてきます。

     

    しかし、後見制度支援信託であれば、信託契約締結後は、契約で定められた金額のみを、定期的に後見人の管理している口座へと送金します。そのため、日常的な支出のみを実質管理をする形になります。もちろん医療費などの予定外の支出があれば、裁判所からの指示を得て、契約内容を変更することが可能です。