民事信託の基礎知識
家族信託を活用した場合の不動産登記
信託をする財産の中に不動産が含まれている場合の手続き
家族信託によって、不動産を信託財産に盛り込む場合には、登記簿(登記事項証明書)に「受託者」の名前が、管理処分者権限者として記載されます。
信託契約に基づき、「所有者(委託者)」から「受託者」への所有権移転登記手続きが行われます。
しかし、これは形式的な所有権移転といえるため、受益者が委託者である場合には、実質の財産権は移行していません。つまり「委託者=受益者」として締結された信託契約であれば、財産権が「所有権」から「受益権」という名前に変更しただけで、信託財産の帰属先に変更はありません。
信託契約時における不動産登記に欠かせない信託目録とは?
信託された財産である不動産の登記簿には、信託目録が必ず作成されます。
信託目録には、受託者が信託により、財産の管理処分権限を持つこと、そして信託で得た収益は受益者に帰属することが記されます。
受託者の権限だけではなく、信託の目的や開始・終了時期などの信託条項は、登記簿にすべて記載され、公示されることになります。
受託者にどこまでの管理処分権限があるのか?信託監督人などの同権利者が立てられていないのか?を不動産取引の関係者が確認できるようになっています。
このように信託条項には、詳細に決められた信託契約の内容が記載され、不正のないように配慮がなされています。ちなみに、信託条項に何を記載するのかは司法書士の判断によって分かれます。
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信託の変更をするときは? 契約信託を行った場合、委託者が元気な間に、生活環境や財産状況の変化があり、信託の目的や信託財産の管理方法などを変更したいと考える事もあります。
この場合は、「信託の変更」を行うことになります。「信託の変更」については、信託法の改正にも携わっておられた寺本昌広氏によって「信託行為に定められた信託の目的、信託財産の管理方法、受益者に対する信託財産の給付の内容その他の事項について、事後的に変更すること」と定義されています(同氏『逐条解説 新しい信託法』339ページ)。
法律の条文でいうと、信託の変更は信託法第149条に6パターンの方法が定められています。
まず、契約信託は、委託者・受託者で結んだ契約によって始まる信託であり、変更する場合は受益権を持つ受益者にも影響を及ぼしますから、委託者、受託者、受益者の三者間での合意が原則とされています。そして、例外的に三者間での合意が不要な場合が列挙されています。
(1)信託の目的に反しないことが明らかなとき
受託者及び受益者の合意
(2)信託の目的に反しないことが明らかであり、さらに受益者の利益になる場合
受託者の書面等による意思表示
(3)受託者の利益を害さないことが明らかなとき
委託者及び受益者の受託者に対する意思表示
(4)受託者の利益を害さないこと及び信託の目的に反しないことが明らかであるとき
受益者の受託者に対する意思表示
(5)上記以外にも、信託を行う際に特約として変更方法を定めていた場合
信託行為で定められた方法による信託は、委託者の想いを叶えるために行うものですから、信託の目的はその根幹をなすものと考えられます。
したがって、その目的に変更がない場合は、その他の部分を変更しても委託者の想いは叶えられると考えることができるでしょう。受託者は、財産の管理・運用を行っていますから、その管理方法等に変更が加えられると、管理の手間が膨大になってしまうなど不利益を被る可能性もあります。そして、信託財産からの利益を受けている受益者にとってみれば、信託の変更は自身の受益権に深く関わる問題です。このような観点から、信託に関わる三者の利益を害さない範囲であれば、変更の要件が緩められていると考えられます。
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後見制度支援信託とは? 商事信託と民事信託は、必ずしも競合するものではありません。活用事例①の共有不動産の解消、活用事例②贈与信託の場合は、民事信託で達成できます。しかし、商事信託でしか実現できないものもあります。例えば、後見制度支援信託があります。ご紹介しましょう。
後見制度支援による信託を活用した財産管理の方法とは?
そもそも後見制度とは、法定後見と任意後見に分かれます。成年後見制度とは、認知症や知的・精神障害などによって本人に判断能力がない場合に、成年後見人を選任することで法律的に本人を支援していく制度です。
後見制度支援信託とは、上記のように支援を受けている方の財産管理を、信託という手段を利用して行うものです。
そのため契約や変更、解約などの手続きは、すべて家庭裁判所の指示に基づいて行われます。
本制度においては、本人が日常生活に必要とする金銭以外を、信託銀行などに信託として預けることで、後見人などによる財産横領を防ぐことができます。家庭裁判所への手続きが必要となる信託契約締結の流れとは?
後見制度支援信託を利用する際には、まず家庭裁判所への後見開始の申立てを行います。裁判所が当該支援信託の利用検討の余地があると判断した場合には、司法書士などの専門家を後見人に選任します。その上で、本人の生活や財産の状況をトータルに考慮し、専門家の後見人による検討・判断が行われます。
そして信託制度を利用すべき場合には、家庭裁判所へ作成した報告書の提出を行います。そして裁判所から発行された指示書をもとに、信託契約を締結します。
後見制度支援信託を利用することで防げる不正行為
親族後見人による、財産の使い込みは年々増加を続けています。平成23年~24年の計2年間では900件以上、被害総額は80億円を超えています。後見人によって財産を横領する事件が起きれば、財産を損なうという直接的な被害だけではなく、成年後見制度自体の信頼性が問われてきます。
しかし、後見制度支援信託であれば、信託契約締結後は、契約で定められた金額のみを、定期的に後見人の管理している口座へと送金します。そのため、日常的な支出のみを実質管理をする形になります。もちろん医療費などの予定外の支出があれば、裁判所からの指示を得て、契約内容を変更することが可能です。
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