民事信託の基礎知識
信託の方法は実は三種類ある!?
①契約信託
委託者と受託者との間で信託契約書を結ぶことで、信託がスタートする方法です。この信託契約書は、必ずしも公正証書にする必要はありません。ケースによっては公正証書にします。
ただし、公証役場で確定日付や認証は行うことをオススメします。費用は1通700円くらいです。
なぜ確定日付をいれるのか?
契約書はワードで作成しますので、データを改ざんされてしまうと、本当にその日に作成したのかが不透明になってしまうからです。つまり、税務署が税務調査をした場合、贈与や信託の日付が本当に正しいのか疑われないように対策するためです。公証役場にいる公証人が日付入りのスタンプを押すことは、税務署も疑いの余地がありません。
②遺言信託
委託者は、信託契約ではなく、遺言書の中に、「委託者が亡くなったら、信託を発生させたい。」というような中身を記載します。つまり、亡くなった瞬間に信託の効力が発動します。
さて、もしかすると、勘のいい方はお気づきかもしれませんが、違和感ありませんか?「あれ?遺言信託?どこかの銀行がやっていた名前と同じではないか」
そうなのです。銀行がサービス提供している商品に「遺言信託」があります。
実は、遺言信託は「信託」という名前こそ付いていますが、厳密には第三者に財産の管理を委ねる「信託」そのものではありません!あくまでもお客様が遺言書を信託銀行に預けて、信託銀行がその遺言書に基づいて遺言を執行することをいいます。つまり、遺言信託は「遺言文案+遺言保管+遺言執行」のサービス名称にすぎません。これを誤解しているお客様が非常に多いです・・・
金融機関がお話している遺言信託はどちらの意味なのかを分けて考えて頂く必要があります。
銀行の遺言信託では、二次相続以降の引き継ぎ先は決めることが出来ないので、大事なのは、ご自信がどういう想いで財産を残したいかですね。そして、遺言信託は公正証書ですることをオススメします。
③自己信託
ある日、自分の財産を信託します。という宣言をすることで信託を発動させる方法です。
つまり、委託者と受託者と受益者が同じ方法です。
これに関しては、公正証書で作成します。ただし、注意点としては、受託者と受益者が同一の状態が1年間続いた場合は、信託が終了するという1年ルールがありますので、受益者を複数にするのか、受益者の変更を行う必要があります。
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家族信託を活用すると二代先(孫)以降の相続を決められる? 一代限りという遺言の弱点をカバーすることができる家族信託
「誰に、どの財産を残すのか?」を、残しておく方法として知られているのが、遺言です。
この遺言書にも、成年後見制度と同様に弱点があります。例えば、「不動産をAに相続させる。ただしAが死亡した場合には、孫のBに相続させる」と遺言書を遺しても、実は、この内容は無効なのです。
いったん相続されてしまった財産は、別の相続人に取得させること効力がないからです。
そのため相続人Aによって、自由に使用されることになります。つまり、遺言の効力は、一代限りです。
もし、上記のような遺言を達成しようと思ったら、Aにも遺言を遺してもらう必要がありますが、Aの気持ちが変わった場合は、残念ながら達成することができません。しかし、家族信託の場合であれば、二次相続以降も指定できます!
その仕組みを説明しましょう。この仕組みは、後継遺贈型受益者連続信託と呼ばれています。
たとえば、家族信託において「委託者=父」「受託者=次男」「受益者=父」に設定します。信託の場合は、受益者を何世代も指定できます。つまり、父が亡くなった際の第二受益者を長男に設定しておきます。そして長男が亡くなった際の第三受益者を長男の妻にしておきます。そして妻が亡くなった際に、信託契約を終了しても良いですし、第四受益者として次男を設定しておくことも有効です。
委託者の意向に沿った形で、財産の動きを管理・運用することができる方法です。
信託銀行や信託機関ではなく、信頼のおける家族や親族を受託者にし、信託契約を結ぶことで、二代先、三代先への相続を指定し、安心して財産の帰属先を操作することが可能になります。自分の遺産を相続した者が死亡した場合に、誰に受益権を引き継がせるのか?の指定をしておくことができます。そのため二代先の相続を指定できるという大きなメリットが出てきます。
よく見られるケースは、お子さまのいないご夫妻で、妻を相続人にした後に、妻が亡くなってしまった際の財産の行方を決めておきたいという方、また再婚した後妻を相続人にし、その次に受益権を前妻との子どもに渡したい方などの事例も見受けられます。
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信託の変更をするときは? 契約信託を行った場合、委託者が元気な間に、生活環境や財産状況の変化があり、信託の目的や信託財産の管理方法などを変更したいと考える事もあります。
この場合は、「信託の変更」を行うことになります。「信託の変更」については、信託法の改正にも携わっておられた寺本昌広氏によって「信託行為に定められた信託の目的、信託財産の管理方法、受益者に対する信託財産の給付の内容その他の事項について、事後的に変更すること」と定義されています(同氏『逐条解説 新しい信託法』339ページ)。
法律の条文でいうと、信託の変更は信託法第149条に6パターンの方法が定められています。
まず、契約信託は、委託者・受託者で結んだ契約によって始まる信託であり、変更する場合は受益権を持つ受益者にも影響を及ぼしますから、委託者、受託者、受益者の三者間での合意が原則とされています。そして、例外的に三者間での合意が不要な場合が列挙されています。
(1)信託の目的に反しないことが明らかなとき
受託者及び受益者の合意
(2)信託の目的に反しないことが明らかであり、さらに受益者の利益になる場合
受託者の書面等による意思表示
(3)受託者の利益を害さないことが明らかなとき
委託者及び受益者の受託者に対する意思表示
(4)受託者の利益を害さないこと及び信託の目的に反しないことが明らかであるとき
受益者の受託者に対する意思表示
(5)上記以外にも、信託を行う際に特約として変更方法を定めていた場合
信託行為で定められた方法による信託は、委託者の想いを叶えるために行うものですから、信託の目的はその根幹をなすものと考えられます。
したがって、その目的に変更がない場合は、その他の部分を変更しても委託者の想いは叶えられると考えることができるでしょう。受託者は、財産の管理・運用を行っていますから、その管理方法等に変更が加えられると、管理の手間が膨大になってしまうなど不利益を被る可能性もあります。そして、信託財産からの利益を受けている受益者にとってみれば、信託の変更は自身の受益権に深く関わる問題です。このような観点から、信託に関わる三者の利益を害さない範囲であれば、変更の要件が緩められていると考えられます。
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