民事信託の基礎知識
信託監督人と受益者代理人ってなに?
信託と成年後見制度における「受益者」と「後見人」の立場の違い
成年後見制度においては、家庭裁判所によって監督を受けなければなりません。(任意後見制度の場合は、後見監督人が必須になっています。)そのため裁判所によって、成年後見人として妥当だとされる人物が選定されます。弁護士や司法書士、社会福祉士、税理士といった専門家が選ばれることが多いですが、家族や友人が選任されるケースもあります。
しかし家族信託においては、監督機関はありません。そこが家族信託の魅力でもあり、リスクのひとつでもあります。信託の場合は、信託監督人を置くことが可能になるというレベルです。利益を受け取れる人「受益者」のために、財産を託される「受託者」が運用・承継を行っています。通常は、受益者が受託者を監督しています。しかし、信用のおける信託財産を管理・運用をきちんと行っているのか、受益者が監督できない場合を想定し、信託監督人を設けることが一般的です。信託監督人は、司法書士等の専門家をオススメします。
根本的な財産管理方法が異なる2つの方法
成年後見制度においては、家庭裁判所へ定期的な財産管理の報告が必要になります。そのため財産の処分となれば、裁判所の許可が必要になります。
一方、家族信託では、原則的に受益者が、受託者を監督します。成年後見制度よりも、自由に財産を動かすことができるため、信託監督人や受益者代理人などを置いて監督するケースもあります。
被後見人を受益者としている場合には、親族後見人に月々定額の生活費を給付することで、不透明な財産管理を減らす役割も期待できます。受益者代理人を置くことで、受益者の代わりに意思表示することが可能になります。最近では親族後見人による横領や浪費事件が増えているため、監督機能は特に注目が集まっています。
信託監督人や受益者代理人の存在
家族信託において、受託者に選ぶ人物には、絶大な信頼をおけることが絶対条件です。大切な財産を託すことになるため、受託者選びは非常に重要となってきます。
しかし、受益者が高齢化し、判断能力が衰えてきた場合、委託者の意向を守り、受益者の利益を守るために、信託監督人や受益者代理人という存在は必要になってきます。
家族信託のすべての契約に、信託監督人や受益者代理人が必要なわけではありません。受益者代理人は受益者と同等の力を持つことになります。設定する際は、慎重に検討しましょう。
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委託者、受託者、受益者が死んだら? 信託契約における当事者が死亡した場合、誰が権利を継承するの?
信託契約には、「委託者」「受託者」「受益者」の3つの立場が存在します。そのため当事者が死亡した場合には、それぞれの定めに従って相続が行われます。
3つすべてに共通して言えることは、信託の契約内で、当事者の死亡時の次の継承者を決めてあれば、その内容に従うことができます。
そのため財産を継承させたい場合には、信託契約にその旨の内容を明記しておく必要があります。
立場別に見る「委託者」「受託者」「受益者」の権利承継者
まずは委託者が死亡した場合、委託者の地位が相続によって継承します。
そこで、以下のような文言を記載します。
(委託者の死亡後の委任者の権利)
第○条 委託者の死亡により、委託者の権利は消滅するものとする。しかし遺言による信託を行った場合には、相続人には委託者の地位は承継されないように信託法で規定されています。
そして受益者が死亡した場合も、委託者同様に、財産の相続人が受益権を相続することで受益者となります。信託契約内に明記がなければ、遺産分割協議で他の財産と同様に取得者や取り分が決められます。生前に受益者が相続人指定をしておくことも可能です。ちなみに、受益権の財産評価は、通常の財産評価と何ら変化はありません。したがって、不動産建物は固定資産税評価額、土地は路線価です。つまり、信託を活用することで直接的な相続税の節税には繋がらないのです。
最後に受託者が死亡した場合ですが、次の受託者を選任しなければいけません。信託契約内に選任方法が明記されていればその方法に従います。定めがない場合には、委託者と受益者が話し合い、合意のもとで新しい受託者を選びます。話し合いがまとまらない場合などにおいては、裁判所に申し立てをして選任をしてもらうケースも出てきます。
信託契約の終了を左右してしまう受託者選任の重要性
注意が必要なのが、受託者が死亡して1年間、次の受託者が選任されなかった場合、強制的に信託契約は終了してしまうということです。(1年ルール)
そして受託者の相続人は、受託者の地位を相続して承継することはないものの、新しい受託者が選任されるまで、信託財産を管理する立場にあります。
そのため信託契約を締結する段階で、さまざまな事情が起こった際の対処法を想定しておかなければなりません。
受託者が死亡した際、次は誰を受託者に指名するのかは最低限、決めておくべき事項になります。誰が先に亡くなるのかは、誰にもわからないことです。そこで、あらゆるケースを想定し、対応策として先手を打っておくことが信託契約の成功の鍵となってきます。
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家族信託を活用した場合の不動産登記 信託をする財産の中に不動産が含まれている場合の手続き
家族信託によって、不動産を信託財産に盛り込む場合には、登記簿(登記事項証明書)に「受託者」の名前が、管理処分者権限者として記載されます。
信託契約に基づき、「所有者(委託者)」から「受託者」への所有権移転登記手続きが行われます。
しかし、これは形式的な所有権移転といえるため、受益者が委託者である場合には、実質の財産権は移行していません。つまり「委託者=受益者」として締結された信託契約であれば、財産権が「所有権」から「受益権」という名前に変更しただけで、信託財産の帰属先に変更はありません。
信託契約時における不動産登記に欠かせない信託目録とは?
信託された財産である不動産の登記簿には、信託目録が必ず作成されます。
信託目録には、受託者が信託により、財産の管理処分権限を持つこと、そして信託で得た収益は受益者に帰属することが記されます。受託者の権限だけではなく、信託の目的や開始・終了時期などの信託条項は、登記簿にすべて記載され、公示されることになります。
受託者にどこまでの管理処分権限があるのか?信託監督人などの同権利者が立てられていないのか?を不動産取引の関係者が確認できるようになっています。
このように信託条項には、詳細に決められた信託契約の内容が記載され、不正のないように配慮がなされています。ちなみに、信託条項に何を記載するのかは司法書士の判断によって分かれます。
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